料亭が緑茶と真剣に向き合った話。

 

なぜ料亭がここまで真剣に緑茶に取り組むようになったのか。

 

今でこそ、掛川市でお茶と料理のことなら「むとう」と

言っていただけるようになりましたが、

疑問に思う方もいるようでして、

取り組み始めた当初はお茶屋さんからも不思議がられていました。

 

 

当事者の私達自身、取り組みを始める前は

そこまでの強い思い入れがあったわけではありませんでした。

 

もちろん有数の茶産地である掛川の人間ですから、

人並み以上にはこだわりがあったとは思います。

 

 

でも、まさか「緑茶乾杯条例」を提言したり、

緑茶メニューの開発や販売にまで事業を展開するとは

思ってもいませんでした。

 

 

 

そんな私達がなぜ、緑茶の普及拡大にここまで

力を入れるようになったのか。

 

 

それにはまず、私達兄弟が掛茶料理むとうで

仕事を始めた頃から話を始める必要があります。

 

 

 

 

◆「掛茶料理むとう」という屋号

 

 

掛茶(かちゃ)料理とはなんですか?

 

 

そんな質問をいただくことがあります。

 

 

「掛川」という地名

 

「普茶(ふちゃ)料理」という料理のジャンル

 

の2つを組み合わせた創業者(父)の造語です。

 

 

 

これには2つの思いが込められています。

 

 

1つ目は、訪れる方々にこの地域そのものを

楽しんでもらうための料理を提供すること。

 

 

「掛川」=「地物食材」という思いで

用いられている言葉です。

 

この地域の空気や気候の中で最も美味しく感じるのは、

地元の水と土が育んだ食材だと思います。

 

 

 

2つ目は、普茶料理の精神を拡大解釈した

「普通にお茶を飲むようにリラックスして」という雰囲気。

 

 

 

堅苦しいイメージのある会席料理ですが、

もっと気楽に楽しんでほしいという思いが込められています。

 

 

ですが、これが曲者でして・・・。

 

解説しないと伝わらない。

 

どう見ても「掛川のお茶を使った料理」としか思えない。

 

 

お客様から見たら、当然そうなります。

 

 

「親父、これお茶料理をもっと出さないとまずいぜ」

 

 

ということで、3つ目の思いを後付けすることにしたのです。

 

緑茶を使った料理=掛茶料理。

 

 

 

 

 

 

◆お茶料理と向き合ってみる。

 

あれから年月が経ち、今はお茶料理のレパートリーがあります。

 

 

ですが、始めたばかりの頃はなかなか難しくて、

早々に壁に当たります。

 

 

お茶料理を看板にする以上は中途半端ではいけません。

 

巷にあふれる「○○を緑茶に置き換えてみました」では駄目です。

 

「緑茶を使うより○○の方が美味しいけどね」

 

だったら緑茶を使う意味がない。

 

 

あくまでも緑茶を使わなければ

出せない美味しさを追求していきます。

 

 

日々料理の試行錯誤を繰り返しながら、

江戸時代から現代までの料理本も読み漁りました。

 

 

 

でも、どこにも参考になるような料理が見つからない。

 

 

そりゃそうです。

 

お茶の最も美味しい摂取の仕方が「飲む」だったのですから。

 

 

歴史上「飲み物」として定着しているのには

それなりの理由があったのです。

 

 

で、はたと気づきました。

 

 

「今、提供しているお茶は大丈夫か?」

 

 

お茶料理の開発よりも先に、

煎茶を極めるべきだということに気が付きました。

 

 

「当たり前だろ」とツッコまれそうなことなのですが、

私達の目を眩ましていた原因が3つありました。

 

 

前述の屋号の件から「茶料理」にとらわれていたこと。

 

会席料理の世界で、食事中に緑茶を飲むことはタブーとされていること。

 

和食店では緑茶が無料という常識があったこと。

 

 

 

私達は、この原因と向き合うところまで立ち戻ることにしました。

 

 

 

 

 

◆食事中の緑茶がタブー

 

信じられないかも知れませんが、基本的に料亭で

食事中に緑茶を提供することはありません。

 

だいたい焙じ茶か白湯が出てくるはずです。

 

 

なぜか?

 

 

 

懐石料理が茶会(茶道のあれです)の後の

軽食から発祥派生したという成り立ちも理由のひとつです。

 

 

 

茶会の後なので、もう緑茶はいらないよっていうことですね。

 

 

もっともらしい理由は、味が問題と言われています。

 

とりわけその渋みです。

 

 

日本料理は引き算の料理と言われるほどに、

淡く繊細な味付けを基本にしています。

 

ですのでカテキンによる渋みが、

吸い物や刺し身の味を損ねると言います。

 

 

 

ここに私達は疑問をぶつけていきます。

 

「ホントにそうか?お茶が合ってないんじゃない?

種類は?入れ方は?」

 

 

 

もう意地ですよ。

 

 

茶処掛川のプライドをかけて歴史に挑戦です。

 

 

 

とにかくいろんなお茶屋さんからお茶を買い集めました。

 

 

あっという間に数十種類を超えてしまいましたが、

これを全部開封して飲み比べです。

 

 

 

85℃、75℃、60℃、20℃、5℃とそれぞれの温度で入れてみる。

 

 

それも抽出時間を30秒、1分、5分と変えてみたり、

急須を揺すってみたりと、色々やりました。

 

 

さらに、それぞれの緑茶と相性の良い料理は何か。

 

日々繰り返し研究です。

 

 

これは本当に良い勉強になりましたね。

 

 

 

「同じ掛川の深蒸し茶でも、こんなに味わいが違うのか!」

 

 

「温度が違うと、こんなにも表情を変えるの?!」

 

 

新しい発見の連続です。

 

 

 

 

 

 

◆緑茶の個性

 

 

考えてみたら当然かも知れません。

 

料理に置き換えればわかる話ですね。

 

同じ港で捕れたキンメダイをそれぞれのお店で

煮付けにしたら、全く同じなんてことがあるわけない。

 

 

考え方や作り方や工夫があって、

料理人の個性がそこに表れます。

 

 

お茶屋さんにもお茶の味を見ている

茶師という人がいるんです。

 

 

 

で、実際に会いに行ってきました。

 

 

そうすると、そのお茶屋さんの企業としての

カラーだとか、茶師さんの個性だとかが見えてきて

 

「なるほど、だからこういう味なんだな」

 

と、緑茶の味と人の個性がマッチングするんです。

 

 

 

どんな味を作りたくて、それを実現するために

どんな技術を磨いて、機械を導入しているのか。

 

 

どんな農家さんから茶葉を買い求めているのか。

 

全てがお茶屋さんの個性です。

 

 

 

そうなると、農家さんにも会ってみたくなりますね。

 

 

で会ってみると、人柄と茶葉の味がマッチングする。

 

なんかもう、嬉しくなっちゃって。

 

 

 

この頃になると

 

 

「会席料理で緑茶がタブー」

 

 

っていう話はどうでも良くなってます。

 

 

 

良いとか悪いとか、そういう話ではなくて。

 

 

みんな違っていて、みんな良い。

 

 

その良さを知ってもらいたい。

 

 

その違いを楽しめるようにしたい。

 

 

その思いがどんどん強くなり、

数種類の中から選べる「緑茶メニュー」を

商品化することにしました。

 

 

 

 

 

◆お茶は無料という非常識

 

 

ここで、大きな壁にぶつかります。

 

 

「和食の料理店ではお茶が無料で当たり前」という認識。

 

 

これなぜでしょう?

 

 

烏龍茶には当たり前のようにお金を払うのに、

緑茶が有料だと怪訝な顔をされます。

 

 

 

ペットボトルのお茶は買うのに、冷茶は有料で買うのに・・・。

 

 

ホントになんで?

 

 

私達は、有料にこだわりました。

 

なぜか。

 

 

人間は、対価のないものに価値を見出しにくいからです。

 

 

 

ブランドものの洋服でもセールで安く購入したものは、

その安い価格での価値しか「感じられなく」なります。

 

 

無料で提供されたものは、所詮無料のもの。

 

 

 

会いに伺った茶師さんや社長さん、

農家さんの顔が浮かびます。

 

 

みなさんの思いをお客様に伝えるための手段として、有料としました。

 

 

 

周囲の方々からは心配して反対の声を聞かされることも

ありましたが、結果としてよかったと思っています。

 

 

 

こんな体験をしました。

 

 

 

ある日のことです。お客様のお席へ伺う時に、

遠くからこんな声が聞こえてきます。

 

 

 

「お~、この店お茶なんかで金とるぞ。おいどうする?」

 

 

メニューを出し始めたばかりの頃でしたので、内心はハラハラ。

 

 

 

やっぱり駄目だったかなと意気消沈しかけたところでしたが

 

 

「やい、なんかってどういうことだ?

おらが作ったお茶をこうやって一所懸命売ってくれてるだでな。」

 

 

 

「ちょっと喧嘩しないでよ。

有料って言っても烏龍茶と同じ値段よ?良いじゃない」

 

 

「そうだ。お茶だけタダってのが、

おら昔から気に入らんかっただ。文句言うじゃない」

 

 

 

さすが掛川。

 

 

 

数人集まると、一人くらいは茶業関係者がいるもんです。

 

 

 

場が収まって素知らぬ顔で

緑茶の注文を承りまして、お出ししたところ

 

 

「こりゃうまいな。ちゃんと丁寧に

入れてくれてある。こりゃあええな。」

 

 

「お前、言ってるこんがさっきと違うじゃないか。」

 

 

「いや、久しぶりにお茶を美味しく味わった」

 

 

「おいおい」

 

 

みなさん爆笑でしたが。

 

 

 

 

途中で違う種類のお茶も飲んでみたいと

追加もいただきました。

 

 

 

お帰りの際には

 

 

「こうやってお茶をしっかり売ってくれる店が

増えてくれるとありがたい。めげずに頑張ってくれな。」

 

 

 

 

と声をかけていただきました。

 

 

 

実は、こういったことがしばらく続き

応援してくれる人がたくさん出来ました。

 

 

 

本当にありがたいことです。

 

 

今では、お茶を楽しみにご来店いただく方も

随分と見えるようになりました。

 

 

 

これを続けてこられたのはもう一つ理由があります。

 

 

 

それは、きちんと収益を上げることが

出来ているということです。

 

 

 

お茶を無料で提供しているお店の大半は

あまり良いお茶ではありません。

 

 

無料のものは経費として

考えることが一般的だからでしょう。

 

 

 

経費ならば当然抑えるべきコストになります。

 

ですので、茶葉はもちろん急須や人件費(お茶をいれる時間)

にあまり力を入れにくいんです。

 

 

 

収益化することで、お茶屋さんから良いお茶を

適正価格で仕入れることが出来るようになりますし、

急須や茶器などにも投資が出来ます。

 

 

継続することが出来ているのも

有料にしたことの効果だと思います。

 

 

 

 

ちなみに、ちゃんとした緑茶が無料で

提供されていたのは、戦後から平成までの数十年。

 

 

 

この期間が緑茶の歴史の中では「非常識な時代」だそうです。

 

 

 

無料で提供することでライバルと

差別化することがいつしか過剰サービスになり、

それをやらなければ置いていかれる状況になった

 

ということだそうです。

 

 

(時代劇で見られるような峠の茶屋も有料でした。

 

団子を頼むとお茶がセットでついてくることが

多かったようですが、そのお茶は出涸らしを鍋で

グラグラと煮出したもの。

 

現代の緑茶とは比べ物になりません)

 

 

 

 

 

 

 

◆広がる緑茶の世界

 

おかげさまで、掛川で緑茶と料理といえば

「掛茶料理むとう」と言っていただけるようになりました。

 

 

 

あれから緑茶料理も増え(地道に研究し続けてます)、

料理に合わせた緑茶ペアリングコースも一定の人気を保っています。

 

 

 

近年は、いろんな緑茶の個性をもっと広く

知っていただくために、

 

「緑茶+お酒」

 

にも注力しています。

 

 

 

近隣の飲食店仲間や商工会議所と一緒に行った

 

「掛川市緑茶で乾杯条例」

 

の提言は、その一環です。

 

 

お茶の種類と合わせるお酒の種類とか銘柄って、

実は相性があるんですよ。

 

私達もやってみてびっくりです。

 

 

 

 

たかが緑茶のことかもしれませんが、

こんなにも広がる緑茶の世界は楽しいと思いませんか?

 

 

 

私達はとても楽しいです。

 

 

 

そして、のんびり緑茶の世界を味わうような

時間が増えたら、社会がもう少しだけ豊かでほっこり

したものになるんじゃないかなと、そんなふうに思います。

 

 

 

 

そのためにも、もっとたくさんの人に

 

「緑茶と周辺の人々の個性」

 

を知っていただきたいと願い、

 

緑茶飲み比べセットを企画しました。

 

 

 

お手元に届いたら、全ての缶を開けて比べてみてください。

 

 

普段はなかなか気づくことのない違いを

体感いただけると思います。

 

 

 

それができるように保存容器は全て保存性の

高いものを選び、程よく使い切れる量にしてあります。

 

 

 

それでは、私達と一緒に緑茶の個性を楽しんでいきましょう。